特別対談
2024.04.01
卒業生が本校名誉教育顧問に聞く! 水族館で働くために大切なことってなんですか?
全国各地の水族館で働くECOの卒業生。この日は「サンシャイン水族館」「のとじま水族館」「カワスイ」「átoa」で働く先輩たちが集結。水族館での仕事について語り合いました。
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しながわ水族館でドルフィントレーナーとして活躍後、サンシャイン水族館へ異動。ペンギン、コツメカワウソを中心に爬虫類などを担当。
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計3箇所の水族館で、主に水生哺乳類・鳥類を担当。現在は、átoaにて飼育展示課のサブリーダーを務める。
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魚類よりも海獣類の面白さに惚れ、2022年までペンギン、アザラシ、カワウソなどを担当し、現在はイルカを担当。好きな水族館はアクアマリンふくしま。
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カワスイ川崎水族館開業に携わる。飼育員、飲食、物販担当を経て、現在は施設管理を担当し、飼育設備などを管理。
「なんとなく好き」から始まった夢ECOでの学びで視野が広がった
中村:君たちはどんなきっかけで、水族館で働きたいと思ったのかな? 安田:小学5年生の夏休みの時にテレビで見た、ドキュメンタリー番組がきっかけです。小さな姉妹が「シャチトレーナーになりたい」と言って、水族館でいろいろ体験させてもらっていて。「私の方が水族館で働きたいのに!」って、そこから火がつきました。 渡部:僕は小学校の文集で、はっきりと「水族館職員になりたい」って書いていました。高校3年の進路選択の時にその文集を見て。「あ、めちゃくちゃかっこいいやん。夢のある仕事やな」と思って、専門学校に進学することを選びました。 吉本:おぼろげに「生き物に関する仕事がしたい」と思っていて、最初は爬虫類ショップとかアクアショップで働くのもいいなと考えていました。でも学校の教務にかっこいい先生がいて。「先生みたいな教務になるにはどうしたらいいですか」って聞いたら、「まずは水族館で働きなさい」と言われて、今にいたります。 渡邉:私はとにかく「イルカ」! テレビや図鑑で見るのも好きだし、イルカのイラスト物とか集めていました。小学生から始めた水泳も得意だったので、「いずれはイルカと一緒に泳いでみたいな」って。高校3年生の進路選択の時に、水泳の道に進もうかとも思ったんだけど、本当にやりたいことはなんだろうって考えて、イルカのインストラクターになることを選びました。 中村:イルカと同じだけ好きなことがあるというのは、すごくいいことだね。生き物が「好き」というのは基本中の基本で、プラスαで得意なことがあるのが大事。それが水族館に役立つものなら、なおさらいいね。泳ぎに美しさを求められるドルフィントレーナーにとって、水泳の特技は役に立っているじゃない? 渡邉:そうですね。すぐに対応できています。 中村:そういった「生き物が好き」ということだけでは養えない部分を、いかに大事にするか。例えば「おしゃれが好き」ということからも、水族館に役立つことは吸収できるんだよ。だって水族館は「人に見せて伝える」場所なのだから、見られていることに意識が向けられる人はいい展示を発想しやすいはずなんだ。好きな生き物だけではなく、他の生き物に目を向けることも大切だね。「ただ、好き」ではなく、「好きな生物のためにできること」を考えることができると、いい水族館職員になれるのではないかな。 渡邉:なるほど! 私は、学校に入ってからフワッとしていた好きが、現実味のある視野を持って広がったような気がします。 中村:学校生活で、いい気づきがあったんだね。 渡邉:はい。最初は水族館で「見る側」の視点だけで、イルカショーのお姉さんになりたいという選択肢一択状態でした。でも、授業や実習、水族館で働いている卒業生の話を聞いて、もし「思っていた好きと違うかも」と思えば、飼育員ではない方法で生き物に関わることができると知りました。例えば野生の保護や研究だったり、ホエールウォッチングのダイバーガイドのように自然界の生き物の姿を解説するような仕事だったり。「違った」と諦めるのではなく、好きから派生して別の目標、やりたいことの選択肢が広げられるのは、ECOに入ってよかったなと思った点です。 吉本:僕は授業で「夢と目標は違う」と教えてもらったことがとても印象的で、今でも大切に胸に刻んでいます。さっき「教務の先生になりたい」と言いましたが、それはあくまでも「目標」。もっと大きな「夢」は、密かに胸にしまっています。 中村:それは、どんな夢なの? 吉本:話してしまうと叶わなくなるので…秘密です。 一同:(笑)みんなが知らない水中世界を、多くの人に知って興味を持ってもらうための仲介者に
安田:実際に水族館で働いて感じるのは、「人に伝える」ことの難しさ。お客さまに動物のことを解説する時、雑学的な豆知識情報だったら「へぇ~!」ってすごく楽しそうに聞いてくれるけど、目の前で展示されている生き物の仲間が野生で今直面している課題などの話をし始めると、一気にお客さまと距離ができてしまう。どうしたら同じレベルで聞いてもらえるようになるのか、私の課題です。 中村:まずは話術がすごく大事です。でも難しいことを教える必要はないのではないかな。例えばイルカのショーで「イルカってなんて尊敬できる生き物なんだろう」と思わせることができるかどうか。かわいいだけではなく、「ちょっとイルカのことを考えてみよう」と思わせることができたら、そのショーは成功だね。 渡部:僕は何かを伝える時、アンサーじゃなくてクエスチョンを残すようにしています。「ペンギンが餌を食べたけど、このあとうんちはどうするだろうね?」など問いかけで終わると、話を聞いた子どもたちは「今度調べてみよう」「このあと水槽をよく観察してみよう」と思ってくれます。「もっと知りたいな」と思ってもらえるよう、日々心がけています。 中村:大事なことだね。その取り組みは「飼育員」ではなく、「展示員」になれたという証。自由を限られる水槽の中に閉じ込められた生き物のためにすべきことは、展示をして多くの人に知ってもらい、自然界に住む生き物の未来につなげること。展示員として生き物やお客さまと向き合うことを大切にしてほしいね。 渡部:先日、イベントを行なったのですが、参加してくれた子からお便りをもらったんです。最後に「僕も飼育員になれるように頑張ります」って書いてあって、「伝わったんだ! この子の人生にちょっと影響与えられた」ってちょっとウルっときました。この伝える喜びを知ったら、水族館での仕事って辞められないほど魅力的だなと思います。 中村:我々の仕事は、みんなが見ることができない水中世界のインタープリター(自然と人の仲介人)だと思うことが大事なんだ。それができるのは飼育員ではなく、展示員にほかならない。だからこそ、展示員としてちゃんと見てもらい、見た人たちが好きになったその先に生き物について考えたくなる水族館づくりをこれからも目指してほしいと思います。頑張って! 一同:はい、頑張ります!