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2023.04.01

深海魚やタカアシガニにタッチ! スタッフとの会話にお客様の喜びと 笑顔があふれる、アットホームな水族館


深海魚やタカアシガニにタッチ! スタッフとの会話にお客様の喜びと 笑顔があふれる、アットホームな水族館のサムネイル画像

一時は存続が危ぶまれた、愛知県蒲郡市にある60年の歴史を誇る「竹島水族館」。 水族館プロデューサーの中村元先生と同水族館のグルメハンターで卒業生の三田圭一さんに、大人気水族館に生まれ変わった理由と魅力を語っていただきました。

  • 蒲郡市竹島水族館 飼育スタッフ
    三田 圭さん
    水族館・アクアリスト専攻卒業

    学生時代、就職して即戦力になるためには、自分には何ができるだろうと考えた際、“お客様と話すことが大好きだ”ということに気づき、そこをちゃんとできるように強化しました。水族館では、挨拶や人との会話だけでなく、周囲とのコミュニケーションが求められます。まずは、自己分析をし目標を決めて頑張ってほしいと思います。

 

ここにしかない資産「深海魚」を活かす

中村:三田さんは、竹島水族館でのスタッフ歴がもう15年になるそうだね。水族館で働こうと思った動機は、やはり魚が好きだったからかな。 三田:もちろん魚は好きですが、もっと好きなのはお客様の喜ぶ顔です。魚たちを見ていただき、喜んでもらうことが大好きなのです。またお客様とお話するのも大好きなのですが、一度お話すると私の顔を覚えてくれて、次に来館した時に向こうから「この間、この魚のことを教えてくれたよね」などと楽しそうに話しかけてくれるんです。目を輝かせて走り寄ってくるちびっ子たちを見ると、ああ喜んでくれたんだ、だからまた来てくださったんだと、自分もとてもうれしくなります。 中村:お客様と楽しく会話ができることは、三田さんの強みだね。ところで水族館に入った15年前といえば、まだ竹島水族館の人気が低迷していた頃だよね。 三田:そうですね。竹島水族館は1962年に建ったので、入った当時はすでに建物は古く、来館者も少なくガラガラでした。それに人を相手にするより生き物の飼育の方が好きというスタッフが多かったので、私は少数派のタイプだったと思います。 中村:そんな中で奮闘していたのが、現在館長を務めている小林さんだね。 三田:はい。もっとお客様に来てもらわなければと、試行錯誤しておられました。その中で、深海生物に力を入れたことが転機になりました。 中村:僕はこの水族館が低迷していた頃から知っています。あの低迷期から脱出できたのは、スタッフが事務所から出てみんなで解説板やプレートに文章を書いたり、お客様と会話を交わしたりといった行動に出たことがきっかけで、それからぐっと人気が出た。その途中に、深海生物を目玉の一つにするというステップがあるんだよね。それにしても、よく自分たちが持つ資産に気づいたと思う。深海魚という資産にね。 三田:近くに水深200m以上の深海の海が広がっていて、ここでは数多くの深海魚が採れます。 中村:深海生物は、水温も常に冷たくしておかなければならないし、そもそも生態の仕組みすらよくわかってないものも多いからすぐに死んでしまう。飼育が難しく面倒なんですよ。しかしその深海魚を「自分たちにはこれしかないから」と目玉にした。そして、普段なかなか触ることができないタカアシガニや、オオグソクムシを入れたタッチプール「さわりんぷーる」を始めたところが、とっても面白いと思います。つまり、何もないところからスタートし、価値がないと思われていたものを活用しながら、次のステップに行くという難しいことをやってのけたわけですよね。 三田:他の水族館に比べても、深海魚は断トツの飼育数です。そして深海生物の展示が充実した頃に多く寄せられた質問が「これ、食べられるんですか?」でした。たいていは「これ、おいしいですか?」と聞かれることが多いんですけど。でもそれがきっかけで、僕は小林館長から「グルメハンター」に任命されました。  

フィールドに出よう!取材殺到!「グルメハンター」がいる水族館

中村: グルメハンターって何をするの? 三田:深海生物は見た目がグロテスクなものが多いですから、お客様は果たして食べられるのだろうかと疑問に思うのでしょう。しかし水族館スタッフとして「多分」などと曖昧な回答ではいけません。実体験として私が食べてみて、そこで得た感想や学びをブログなどの文章にして紹介したり、質問に答えたりしていました。 中村:どういうふうにして食べたのかな? 味付けは? 三田:食べ方のルールは決めてあります。味付けはせずに、生か、焼くか、茹でるかです。味がきちんとわかるよう、シンプルにいただきます。 中村:塩味くらいつけても良いんじゃないかな(笑)。しかし、深海生物を食べて、三田さんのお腹は大丈夫なの? 三田:一度、漁師さんからいただいたタカアシガニにあたったことがあります。 中村:タカアシガニってあたるの!? 三田:恐らく、エラの部分を食べたのだと思います。水中の酸素を取り入れる器官であるエラは、雑菌類が付着しているので食べてはいけないのですが、誤って口にしたのでしょう。5分もしないうちに猛烈な腹痛に襲われてしまい、その後3日間ほど調子が悪かったです。何かあったのはそれくらいですね。でも食べる前に、きちんとその生物の生態を調べて食べているので安心してください。 中村:まさに体を張っているね。でもこれが、竹島水族館の強みの一つなんです。この水族館の水槽横にある解説板に書かれてあることは、決して図鑑から拝借してきた文言ではない。すべてスタッフ自身が感じたことや研究したことなんですよ。本当に大切なことです。あと、聞いたところによるとウミグモはエビの味だったとか。 三田:ウミグモは、カニ味噌です。 中村:カニ味噌!じゃあおいしいね。 三田:ただ、鉛筆の先ほどのごく少量しかありません。だから舌で感じる味よりも、鼻から抜けるときの風味がカニ味噌ですね。最初の「食べる勇気」さえあれば、何だって食べられるだろうと思っています。 中村:竹島水族館のグルメハンターとして、たくさん取材が来るでしょう。 三田:そうですね。全国の動物園や水族館が参加した『へんないきもの大王タイトルマッチ』の「へんな生物部門」で唯一人間として出場し、深海生物を食べると評価されて優勝したのも大きかったです。ありがたいことに、取材の話は数多くいただきます。 中村:全国ネットのテレビにも出演した? 三田:はい、テレビは全国ネットも地方局も来ました。あとラジオにも出演しています。  

廃館寸前だった水族館が、大人気スポットに生まれ変わった理由

中村:振り返ってみると、三田さんがメディアに出る理由は「魚が好き」とか、「魚のことは何でも知っている」からじゃないんだよね。深海魚という、みんなが食べない生物が食える珍しい水族館スタッフということ、そして人前で話ができること(笑)。でも、人が喜んで訪れる水族館には、このようなユニークなスタッフの存在が欠かせません。あなたは今、竹島水族館にとって非常に貴重な戦力だね。 三田: ありがとうございます。 中村:は三田さんのような人物がたくさん出てこなければいけないと思っています。つまり、水族館に変化を与えられる人です。「育てる」という点では、水族館も人も似ています。僕は、特に自分の講義のときには弱点があってもそれを強みに、マイナスをプラスに変えられる方法を探せる力や発想を持ってほしいと思いながら教えています。 竹島水族館の場合も目玉になるようなものもなく、廃館寸前とまで言われた時期があったんですよ。それなのに復活どころか、人々の注目を集めるエース級の水族館に変身し、今も成長し続けています。なぜそれが可能だったのか。水族館をプロデュースする僕にとっては、その原因や理由をあれこれ考えるのがとても楽しいんです。 ただ、どんどん竹島水族館が変化し成長する中で、スタッフがぽろぽろと辞めた時期があったそうだね。三田さんが残ってくれたのはなぜだろう、しかもそれだけでなく、エースになったのはなぜか。そこが大事だと思うんだけど、どうかな。 三田:私は「とりあえず残らないと何も始まらない」と思っています。嫌だからと辞めてしまえばそこで終わりです。残って続けることで、見えてくるものは多いと思いますね。それに同じ場所にいても、周囲の環境は変わり続けるものです。そうした変化に対応できるかどうかは自分次第ですが、やはり辞めずに耐え続け、きちんと水族館を見続けることができなければ。過去に辞めていった仲間を見ても「あ、そこで耐えられなくなったか」、「もう少し耐えられたら、次に進めたんじゃないか」と思うことが多いですね。 中村:自分がエースになれたのは、なぜだと思う? 三田:もともと深海魚を食べたきっかけは、当時は主任だった小林館長から「食べて」と言われたからです。でも私は、学生の頃から釣りやルアーフィッシングが趣味で、プライベートで釣った魚を食べていましたから抵抗ありませんでした。一度食べてみて、その後は自発的に食べるようになりました。当時の館長や副館長からは「やめておけ」とか「深海魚を食べるなんて」と言われましたが、「いけます!」とやり続けたのです。  
 

常に先の戦略をグルメハンターが次に狙うのは

中村:ははは。さすがだね。では今度は、食べた深海魚のおいしい料理の仕方を伝えるというのはどうだろうか。これは塩味が美味とか、しょうゆ味が最高とか。これは焼くと香ばしさが増すとか、あと干物にするにはどうしたらいいかとかね。 三田: レシピ化ですか。 中村:深海魚のようなグロテスクな食材を食べるってすごく面白いでしょう。グルメハンターなら、さらにみんなが食べられるようにレシピを考案すればもっと親近感が湧くよ。「あ、特別な魚じゃないんだ、自分たちも食べられるんだ」と喜ばれるよ。それが三田さんの次のステップだね。 三田:次のステップですか。 中村:つまり、こうやって常に次の手を考えなくちゃいけないってことなんですよ。エースでいるためにはね。 三田:なるほど。 中村:しかも、すでにメディアの注目を集めているのだから、次の戦略を打って出たら、絶対にまたメディアに注目されるよ。そこをうまく利用するのも戦略です。 三田:次の目標は味付け調理ですね。  

水族館で何をしたいかその先を目標にする

三田:将来水族館で働きたいなら、生き物が好きであることは当然です。でも「生き物を飼育したいから」という動機では、続かないでしょう。何のために水族館に入るのかをよく考えてみることが大切です。自分の趣味を楽しむために目指すのか、お客様に何かを伝える場として、または提供する場として水族館を目指すのか。例えば「イルカが好きだからイルカトレーナーになりたい」という希望者はかなり多いけれど、それではトレーナーになった瞬間に夢が終わってしまいます。トレーナーになって何をしたいのか。その先を聞いても、答えが返ってこない人が多いんです。 中村:トレーナーになって満足して、辞めてしまうんだね。中にはイルカのトレーナーに憧れる動機が、イルカと一緒に演じてる自分を見てもらいたいという人もいるね。それではイルカがかわいそうだ。そこにイルカのいる意味がなくなってしまうからね。本来、お客様にいろんなことを伝えるために、広い海ではなく狭い場所に閉じ込められて懸命にトレーニングしているイルカを、ただのショーの道具になんてしてはいけないんです。そのようなイルカのトレーナーは、僕に言わせれば動物が好きな人ではないし、ましてやイルカが好きとは言わせないですよ。三田さんの言った通り、トレーナーになるためだけならやめた方が良い。大切なのは、その職業に就いて自分が何をしたいかです。水族館では、お客様に何かを伝えたいという気持ちがなければ、水族館にいる意味がないからね。 三田:そうです。他にもトレーナーになってみたらイメージと違ったといって辞めてしまう人や、上司や先輩と対立する場面も見てきました。でもそのもとになる原因は、きちんとした目標がないからではないでしょうか。 中村:専門学校は就職専門学校です。将来、その仕事を続けたいと思える理由や動機をきちんと考えて、入学しないといけないね。 三田:専門学校は2年間しかありません。僕の場合、入ってすぐに担任の先生が「たった2年の専門学校生は、4年間勉強した大学卒業者には学力では勝てない」、「では何で勝つかと言えば“即戦力”しかないぞ」とビシッと言われたのが、心に響きました。学力以外でカバーしないと太刀打ちできない、即戦力として自分に何ができるだろうかと考えて、お客様と話すのは嫌いどころか大好きだし、それならそこをきちんとできるように強化しようと自己分析しました。 中村:それは素晴らしいね。 三田:あとは基本的なことですが、きちんと挨拶ができて、人と会話ができる人が求められます。周囲とコミュニケーションを取ることがもっとも大切です。私は年下のスタッフには、例えば1日5人と自分で目標を決めたら、5人のお客様と話してきなさいと送り出します。トツトツとした会話でも一生懸命ならば、お客様はきちんと聞いてくれますから。 中村:挨拶もそうだし、お客様との会話もね。大切なのはお客様にスタッフが見えることですよ。そうして会話を交わし、相手の気持ちを理解する姿勢は将来必ず役立ちます。