巨大プールでイルカパフォーマンスなど鯨類をテーマにした北館と、日本から南極への旅をテーマにした南館で構成される、日本最大級の水族館「名古屋港水族館」。
北館で海獣を担当する猿田さんと、南館で魚類を担当する吉原さんは配属されたばかり。この日は本校の教育顧問が二人を訪ねてアドバイスしました。ECOの先生たちは、卒業生のその後もサポートします。
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茨城県出身なので大洗水族館のイルカパフォーマンスを見る機会が多く、中学生のころから「あっち側に立ちたい」と思うようになりました。高校では一旦公務員を目指しましたが、ドルフィントレーナーの夢もあきらめきれません。そんなときに参加した学校のオープンキャンパスで熱血先生の話を聞き、ここで学びたいと思いました。
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ひとつひとつ集中して学ぶのが大事です。学校では「水族館で働くには活発であることが一番大事」と教えられました。イベントはお客様に楽しんでいただくサービス業ですので、自信を持って、はつらつとこなさなければなりません。そのためには僕もしっかりと仕事を覚え、堂々とイベントを行えるようになりたいです。
中村:二人はいつごろから水族館の飼育員を希望していたのかな。実際に働いてみてどうですか?
吉原:僕は幼いときから水棲生物を見るのが好きで、魚に関わる仕事がしたいと、漠然と考えていたぐらいだったのですが、運良くこの水族館に採用されました。今年の6月に配属されたばかりで、まだ学ばねばならないことだらけですし、この業界でどうなっていきたいかもわかっていません。でも、学校で学んだことを活かせるとうれしいですし、知らないことを覚えるのも楽しいです。
猿田:中学生のとき、ドルフィントレーナーになりたいという思いが芽生えました。4月に名古屋港で働き始め、お客様の歓声を聞いたときは達成感がありました。この業界の誰からも認知されるようなトレーナーを目指しています。繁殖の研究や域外保全にも取り組みたいのですが、全国の水族館を巻き込まなくてはいけませんから、やはりリーダー的な存在にならなくてはいけません。その第一歩として、まずはベルーガ担当の上司からパフォーマンスの魅せ方を学んでいます。
中村:先輩のやっている通りにするだけでは古くなってしまうよ。「絶対に越えてやる」と思わないと。トレーナーになれただけで満足してしまったり、次に何を目指せば良いかわからなかったりする人も多いんだけど、猿田さんはトレーナーになれても「まだここからだ」と思ったんだよね。たとえばどんな努力をしているのかな。
猿田:今は本を読んでトレーニングの勉強をしています。
中村:トレーニングの勉強も大事だけど、イルカの勉強をした方がいいね。君が憧れる上司は、動物を魅力的に見せているわけだよね。動物が一番輝くのは自然のままの姿だから、たとえばベルーガを魅力的に見せたいなら、できれば野生のベルーガを見に行った方がいい。吉原さんが担当しているのは魚だよね。魚なら海に潜ったら見られるけど、見に行ったことはある?
吉原:在学中に取得したダイビングのライセンスは、水槽の掃除にも活かせていますが、せっかくですから実際に海に潜り、魚を観察してみたいです。
中村:そうだね。吉原さんは魚をペットとして飼うのと水族館で飼育するのでは、何が違うと思っていますか。
吉原:ペットは愛着をもって接しますが、今はあくまでも展示物を管理していると感じています。
中村:働き始めて半年も経たないのに、よく気付いたね。水族館の魚の持ち主は水族館だけど、本当の持ち主はお客様。だからお客様に見てもらう工夫が必要です。マイワシの水槽は、足を止めているお客様も少なかったのに、トルネードを始めたらみんなに見てもらえる水槽になった。あのプログラムを考えた人は、ダイビングなどで小魚の群れに遭遇し、その躍動感を知っている人じゃないかな。吉原さんはダイビングで何を見てみたいのかな。
吉原:サンゴ礁の熱帯魚の世界を、自然の中で見てみたいです。
中村:生物学的な生き物の生態ではなく、生きるための生態を知るのは大事だよね。潜ればたくさんの情報が入ってくるから、君が感動したものをお客様に見せたらいいね。
吉原:まだ配属されて3ヶ月ですが、マイワシのトルネードだけでなく、黒潮大水槽やサンゴ礁大水槽のフィーディングタイムの解説も担当しています。まずはこれらの解説で、お客様に魚たちの魅力を伝えられるようになりたいです。
中村: 君たちはこんなにたくさんの生き物がいて、いろんな展示がある、素晴らしい環境で働いているわけだけど、猿田さん、南館にはよく行く?
猿田: いえ。
中村:吉原さんは北館へよく行く?
吉原:いいえ。
中村:マイワシトルネードをもっと魅力的なプログラムにしたいなら、イルカパフォーマンスを研究したらいい。イルカの動きで魅力を伝えるイルカパフォーマンスを、どうすればマイワシに応用できるか考えてみよう。ベルーガの公開トレーニングにも南館の展示が参考になるよ。パフォーマンスは伝わりやすいし、お客様はシャチやベルーガを見るだけでも喜んでくださるじゃないですか。でも、それが自分の仕事のすべてだと思ったら大間違い。イルカに身体能力があるのはみんな知っていて、ただ高くジャンプしただけでは驚かない。人とコミュニケーションがとれているのに驚くんだ。だから、人との信頼関係がわかるパフォーマンスは成功する。ベルーガの訴えをトレーナーが感じ取っていることを、どうやって見せるのかが大事なわけだけど、それは北館だけウロウロしていても見つからない。ベルーガやシャチの命もイワシの命も同じ命。クラゲはふわふわしているだけなのになぜ人の心を捕まえるのだろうと考えるだけで、トレーニングの技術を越えるものをつかめるんじゃないかな。
猿田: ベルーガはイルカなどと比べると、気持ちがわかりやすい魅力があります。公開トレーニングのあとに、ホイッスルを使わずに遊ぶだけの時間があり、楽しそうな様子が伝わるとは思うのです。でもやはり公開トレーニングの内容を工夫したい。そのために南館へ行き、魚たちを観察したいと思います!
吉原:僕もイルカパフォーマンスを見学して、見せ方の勉強をしようと思います!